残留農薬期間と人体被害への影響、国産農作物の安全基準は

農作物を栽培するには、多くの農薬が必要となります。それは、外から寄ってくる害虫や発生する病害による品質の劣化を防ぐためです。しかし、農薬散布をすると作物に農薬成分が付着します。そのまま作物が出荷されると農薬が残留した状態で口にすることになり、人体に被害を及ぼす可能性があるのではないかと安全性が懸念されています。

そこで今回は、安全性の高い作物の農薬基準や残留農薬期間について説明します。

残留農薬の実情を知って有効な除去方法を考える

農作物を安全に出荷できる基準とは

スーパーなどの食品売り場にならぶ野菜や果物などの農作物は、国産から外国産まで様々な場所で育てられ、出荷されたものです。作物が出荷されるまでには数多くの農薬や肥料が使用されています。自然の中で大量の作物を栽培するためには、農薬も肥料も欠かせないものです。

一方で、本来品質を向上するための農薬や化学肥料が、作物の表面や中に残り続け、人の健康状態に影響を及ぼすのではないかと問題視もされています。作物に使用されている農薬は、生産地、生産農家によって異なる場合が多いです。

では、作物が安全に出荷されるための農薬基準はどのようなことが定められているのでしょうか。

出荷時の農薬検査基準

私たちが普段口にしているであろう店にならぶ野菜や果物は、農薬検査が行われたのちに出荷されています。出荷可能な基準をクリアしていない作物は、はじかれて店に出回ることがないように選別されています。出荷するための農薬基準には、登録作物であるか、使用希釈倍率が守られているか、散布回数を超えていないか、残留しない農薬使用期間が守られているか、などがあります。

また、反対に使用を義務付けられている農薬もあります。これは各地域の農協によって異なっています。それは地域で発生しやすい病害虫を確実に防ぐためや、その年に流行している病害虫の対策としてなどが理由です。

作物別の残留農薬期間はあるのか

作物に付着した農薬はどれくらいの期間残留するものなのでしょうか。病害虫防除のために使用される農薬は散布後、時間が経つにつれて分解していきます。これは農薬の種類、使用作物の組み合わせごとに細かく決められています。

つまり、どの作物にどの農薬を使用しているかが問題なので、「トマトには○○日間農薬が残留する」のように作物別に簡単に断定できることではありません。「残留農薬期間」という言葉が意味するのは、消費者側から見ると、食べても安全なレベルまで農薬成分が分解されるまでの期間、生産者側から見ると、出荷何日前まで農薬を使用して良いか、ということになります。

農薬が残留しない使用期間は、「使用時期」として農薬の種類ごとに登録で決められています。

殺菌剤として使用した農産物の残留農薬は、紫外線で光分解できる?

農薬登録の例

農薬と一言でいっても目的や用途によって種類があります。例えば畑の雑草を枯らす「除草剤」、作物を病害から守る「殺菌剤」、作物を害虫から守る「殺虫剤」です。どの種類の農薬にも使用可能な作物、使用量、回数、使用期間などが定められています。

これは、同じ農薬でも使用する作物によって農薬の効き目や残留する期間が異なるためです。例えばアブラムシやアオムシの被害を防ぐ殺虫剤の「オルトラン水和剤」の使用基準は、大豆の場合、1000倍希釈で収穫60日前まで使用可能です。

一方ではくさいに使用する場合、1500倍希釈で収穫30日前まで使用可能となっています。同じ農薬を使用する場合も、どの作物に使用するかによって散布できる農薬の濃さも使用できる期間も異なります。

残留農薬による人体への被害

残留農薬の人体への影響は様々な機関で研究が行われています。確証はないものの、特定の農薬成分が身体異常へ繋がる可能性として考えられる場合もあります。成長が進む胎児や小さい子どもは残留農薬の影響も受けやすいと懸念されています。

特に脳や神経系への影響が大きいと考えられており、知的発達障害、行動、運動神経、精神面への悪影響が警告されています。また、がんの発生率の上昇や免疫低下、流産の確率が高くなるなど母体への影響の可能性も指摘されています。

その他、ADHD(注意欠如多動性障害)などの関連報告や、加齢や遺伝の影響が大きいとみられているアルツハイマー病やパーキンソン病も、農薬残留と関連があるという研究がでてきています。

日本の残留農薬試験

人体へ影響する残留農薬基準を調べる方法として主に2通りの試験があります。1つは1度に大量に農薬成分を摂取した場合の急性毒性試験、もう1つは長い期間摂取し続けたことによる影響を調べる慢性毒性試験です。日本国内で使用が許される基準は、この2通りの試験で異常が起こらなかったさらに100分の1、1000分の1の薄い濃度で使用登録が定められています。

よって店に出回っている野菜や果物は人体に限りなく影響が少ない農薬濃度なので、残留農薬による被害リスクは小さくなります。残留農薬の被害が出ない使用基準は国によっても異なります。日本の農薬安全基準は海外よりも高く、他国で定められている農薬使用濃度の10倍、100倍以上であるケースが多いので、国産の農作物は残留農薬によるリスクが少ないです。

無農薬野菜は安全か?

近年では、有機野菜(オーガニック野菜)や無農薬野菜なども話題となることが多く、健康を意識した食べ物への関心が高まっています。減農薬や無農薬が評価されることがありますが、無農薬野菜について正しく理解できていますか。

なぜ農薬を使用している農作物の割合が圧倒的に多いのか、という視点から見ていきます。まず、なぜ農作物栽培に農薬が必要なのかについて考えていくと、理由は農薬を使用しないと食べられる状態で出荷できないからです。

作物が良い品質のまま育つまでには、いくつものリスクが待っています。農薬を使用しないと、虫に食われたり、害虫が持つウイルスが侵入して作物が病気になったり奇形の割合が高くなったりなどの影響があります。他にも、多雨多湿によって根腐れやカビを引き起こす可能性もあります。

作物の種類によっては虫の住み家となっていて、家で調理しようと中身を見た時に、虫が沸き出てくるという状況もあり得ます。基本的に屋外で育てる作物には外敵がたくさんいるので、殺菌剤や殺虫剤などの農薬を使用しないと人が食べられる状態ではないというのが現実です。

小規模の畑面積なら人が手間を掛けることで、病害虫にも侵されず農薬残留リスクも減らせる作物が可能かもしれませんが多大な人件費や管理コストが発生する要因となります。北海道などの大きな畑を持つ大規模農家になるほど現実的ではありません。

日本の残留農薬基準は高い

農薬の使用基準は作物、農薬の種類ごと細かく定められており、日本では人体に影響を及ぼす可能性のある濃度のさらに低い濃度で使用されています。使用時期に関しても農薬散布後、出荷までに十分な期間が設けられており、海外基準よりも残留するリスクは低く設定されています。

日本の農薬基準へ正しい理解をもって生活に役立ててください。